九州脊梁に眠る伝説のベッコウサンショウウオ、誰も教えてくれない生息地の裏側まで迫る! 

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お魚ガチが書きました
歩き方

自然大好き一家で自然保護協会家族会員。自然観察指導員 。熱帯魚はベタ、日本淡水魚はタナゴその他を20本以上の水槽で飼育中。
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ベッコウサンショウウオについて

熊本県レッドデータブック両生類より

ベッコウサンショウウオは令和4年に特定第二種国内希少野生動植物種に指定された九州に生息する小型サンショウウオの一種です。

特定第二種の場合は販売や譲渡が禁止ですが、採取行為や飼育は可能です。しかしながら、熊本県・鹿児島県・宮崎県の条例で採取と飼育も禁止つまり、ベッコウサンショウウオは棲息地全域において捕獲・飼育が禁止です。具体的には熊本では天然記念物、宮崎と鹿児島では指定希少野生動植物となっています。

条例で保護された生物ですが、生息環境を脅かさない範囲においての観察や撮影することは可能です。

※ベッコウサンショウオは捕獲・飼育・販売は禁止です。観察だけにしてください。

指定希少野生動植物は、県の許可無く、捕獲、採取、殺傷又は損傷することはできません。譲渡や飼育も禁止。
違反すると罰則(最高で1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。

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ベッコウサンショウオ探しにいくぞ

先日、チクシブチサンショウウオの成体がひとつの沢で10個体ほど観察できました。この時はすべての個体を沢付近で目視で発見(数日後、別の山域では我が家のすまら君とお仲間がチクシブチとコガタブチの二種同時発見)。もし、ベッコウサンショウオがチクシブチと同じように夜は沢にいるのなら捕獲しなくても観察と撮影ができるはずと思い立って出発しました。

ちなみに、今まで見つけたサンショウウオはナガト(山口県)・カスミ(福岡県)・ヤマグチ(山口県)・チクシブチ(福岡県)・コガタブチ(福岡県)・ブチサンショウウオ(佐賀県)。ベッコウサンショウウオは日本一美しいともいわれるので、九州住まいとしてはぜひ一度は見たいあこがれの生物。美しいと言われる理由は黄色のまだら模様なんですが、個体差が多く斑点が少ない個体もいます。見つけたその一匹がまさにオンリーワンな小型サンショウウオなのです。生育地は池ではなく渓谷の源流域になり、流水性のサンショウウオです。流水性のサンショウウオは非常に発見が困難で、ダイヤモンド探しと比喩する人がいるほど(特盛山椒魚本より)。

今回探しにいくのは九州脊梁山地というエリア。ベッコウは脊梁山地とその周辺の山の沢にいいます。宮崎・熊本・鹿児島の複数の山域に生育しており、線ではなく点で生存しているとのことです(特盛山椒魚本より)。

脊梁山地は登山で所々いったことがあったので、多少なりとも土地勘のあるエリアをピックアップして地図でポイントとなる沢を複数絞り込みましました。

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いざ、ベッコウ探しへ!!!

4月中旬、探索当日は15時ごろに現地に到着して明るいうちにいくつかの沢をチェック。この時は少し様子を見に入っただけですがサンショウウオは発見できませんでした。発見できたのはヒキガエルのオタマジャクシ、逃げる鹿のお尻、鹿の頭蓋骨、タゴガエルの泣き声、ステンレスのたも網の枠くらい(持ち帰った) 。

鹿の頭蓋骨発見。沢に落ちていた。弟君にお土産として持ち帰りました。過去に洞窟で鹿の大腿骨も発見したことのある弟君は大喜び。鹿の角はクラフトに使えます。他に鹿の角だけも落ちたよと教えたら、「何で持ち帰らなかったのか、ナイフに加工したかったのに」と怒ってました。山で拾ってきた黒曜石と合わせてナイフを作りたかったみたい(すでに二本あるのに)。

以前ある洞窟で拾った鹿の大腿骨の化石二本。災害クラスの大雨後、洞窟内の沢に露出していた。単なる骨ではなく化石化している。まさかヘラジカ?かと思ったけど、違うっポイ。

いざ夜間探索へ|発見の瞬間レポート

こんな感じの沢。場所を特定されないようにイメージ画像。

昼間に5本見た沢のうち、1カ所は大変な落盤地帯で水も流れておらず候補から外しました。自然林の面積が広く期待していたのですが残念。崩れやすく険しいから自然林が残っていたって訳です。

下見を済ませて昼間の状況から本命の沢と入り口にテントが張れる二本沢を選定。

明るいとサンショウオは出てこないのは経験で分かっているので、ある程度暗くなるのを林道で待ってから一本目の沢に突入。

※近くで遭難騒ぎ?か何かでレスキュー隊を見かけました。まさか今から山登り?って感じで見られてしまいました。

2人でライトを頼りに薄暗くなった沢を遡っていきます。水量は脛くらいなので、長靴でokなくらいの沢です。倒木地帯や狭いゴルジュ帯を通過したりしながら水が溜まった個所などを丹念に探しました。20分くらい遡ってようやく幼生発見。

ベッコウの越冬幼生発見。斑点が多く美しい個体になりそう。よだれ。

気分は完全に成体を探していましたが、思いがけず越冬幼生を発見。春だから変態済みと思い込んでいたんだけど、調べたら変態まで2年かかるのもいるみたいなので納得。ということはベッコウの幼生は年中確認できるってことです。それにしても模様がカッコいい。間違いなくベッコウサンショウオの幼生でした。サイズもデカく上陸間近?な気もしますが、小さいサイズもいてどの個体もまだ外鰓がありました。

わーいやったーと撮影していると、すぐ近くに成体も発見。いつからそこにたの?この子の親?

お分かりだろうか。完全に岩の色と一致。模様がこの沢の保護色となっています。慣れない人は水中で見つけるのは難しいかもしれません。
発見、ベッコウサンショウウオの成体。尻尾が一部欠損。

ベッコウサンショウウオの成熟個体発見できて今回の最大目標をクリアしました。見た目は明らかにブチやチクシブチ、コガタブチとは違います。そうそう、水の中だと粘液が青く光って神秘的な感じなんです。

カメラを水中に入れて撮影しようとするのに、電源が入らない。肝心な時にナンテコッタともたついていると、岩陰に入っていしまいました。

かろうじて撮れた水中画像。尻尾が千切れそうになってる。サンショウウオは尻尾や手などを欠損している個体が珍しくない。先日は片目がつぶれたチクシブチサンショウウオを発見した。

この個体を見つけた時は拍子抜けでキョトンとしてしまいました。あれ、成体もいるじゃん。いつからそこにいたの?って感じでした。さすがニンジャともいわれることもある小型サンショウオです。

とにかく成体が見つかってホッとしました。もう少しゆっくり撮影したかったのですが、ほぼほぼ満足できたのでルンルン気分。ちなみにこういう個体は、一度隠れても数十分後にまた現れる時があります。どうしてももう一度見たい時は、後でまた来たりそばで待つのもアリです。

幼生30個体と成体1個体を発見!

その後、さらに沢を遡ると次々と幼生発見。幼生でも模様の個体差が大きく、興味深かったです。やはり黄色が多い方がインパクトあって綺麗な大人になりそうな気がします。

幼生が一か所の淵で3匹とか見つかるので、よしよし成体もまだまだ見つかると思って探しましたが結局最初の一個体のみでした。完全に水が無くなる源流までさかのぼって地図上でも稜線近くまで上がってきました。これで1本目の沢は終了。

サワガニやヨコエビはサンショウオ生育のヒント。サワガニさえいない沢にはサンショウウオはいないと思う。サワガニの稚ガニなどがサンショウウオの食料となるはず。他にはヨコエビ、カワゲラ、トビケラの幼虫などもいた。

車で移動して二本目の沢の入り口に移動。崩壊して車が入らない林道なのでテントを設営して探索開始。

すぐに次々と越冬幼生を発見できました。1本目の沢より多かったです。沢の距離も長く平流や吐合もあり、流域は一本目より規模が大きかったです。

しかし、見つかるのは越冬幼生ばかりで成体は見つからず。時計を見ると23時だったんので源流まで上がることを諦めて下りました。もちろん、下りに成体を発見する可能性もあるので急ぎつつ観察眼を光らせながら下山です。残念ながら成体は二本目では発見できませんでした。

行動パターン・出現状況の記録

今回ベッコウサンショウウオを発見したのは標高900~1100m。

ベッコウサンショウウオの出現状況の記録

  • 探索場所:九州脊梁山地エリア 詳しい場所は棲息地保護の観点から非公開
  • 観察日:観察日は4月中旬。
  • 沢の場所:源流に近い沢。標高は900m以上。2-1m幅。
  • 気温:15-20度。水温ちべたい(水温計持ってきたのに測り忘れた)。
  • 時間:日暮れ以降。
  • 沢の状況:礫が重なって隙間が多い。水生昆虫が多い。小さな段差と小さな淵が多い。沢の幅は1-5m。泥の入り込みは少ない。
  • 場所:水流がある所にはいない。緩やかな淵となっているポイント。
  • 幼生:30個体は見れたが、大きさや模様はまちまちだった。最初の沢は源流近くまでいた。生体サイズは5-8㎝くらい。
  • 成体:1個体しか見れず。小さな段差のこぶし大の礫の隙間に隠れていたのが、幼生を撮影している間に出てきた。ライトを当ててもすぐには逃げなかったが、礫の隙間に入っていった。尻尾の一部が千切れかけていた。
  • 見つけ方:観察だけなので、木や石を裏返すことはしなかった。そもそもやる必要はないし、捕獲行為にもなってしまう。ライトやカメラを向けるだけではすぐに逃げない。基本動作はゆっくりだから。しかし、触ろうとするとものすごい速さで逃げるはず。
  • 注意事項:山が深いので注意する。標高500m程度でもいるらしいので、もっと人里近くで発見できる可能性もある。
沢の入り口。普通の人は入らないよね。

使用した装備紹介

夜のサンショウウオ探しで使用した装備

  • ハンドライト
  • ヘッドランプ
  • 胴長・長靴・長袖・帽子
  • 応急用品・行動食・水

体の保護のため長袖長ズボン、帽子着用。胴長か長靴で良いいのだが、胴長が最強。

夜の沢で安全に行動するため、そしてサンショウウオを少しでも見つけやすくするためにある程度明るいライトを使用したい。

ライトは充電式と電池式があるが、充電式の方が基本明るい。だが、一晩探すような人はかならず電池切れになるだろう。電池式も持っておきたい。ペツルのアクティックコアというヘッドライトは充電式も電池式もどちらもできる。しかもかなり明るい。

網や撮影用白バットは捕まえないので今回は無し。しかし、他の生き物を捕まえるのに小さな網は有ったらいいかも。

キャンプ用品
テント(テンマクデザインツードアドーム3) /グランドシート/テントマット/シュラフ/スリーピングマット/LEDランタン/ヘッドランプ/ガスバーナー&クッカー(プリムスイータエクスプレス)/カトラリー/シェラカップ/水ポリタンク(計3L)/EDCバック(応急・小物)
食事メニュー
夜:カレーメシ+卵/ジャガリコマッシュ
朝:パン/即席スープ/バナナ
予備:棒ラーメン/お菓子

観察からわかったベッコウサンショウウオの「生息地の裏側」

沢のほとんどが杉が倒れこんでいる

ベッコウの沢は想像以上にシビアな生息条件でした。何が過酷かというと、手入れが入らない植林による荒れ放題の山と谷。谷のあちこちが崩落地です。山奥なのに自然林が少ないという異様な感じ。倒れたり間伐された杉は放置されて谷を滑り落ちてきて沢をふさぎます。貧弱な植生により土壌ももろくなり、あちこちで崩壊しています。ベッコウサンショウウオにとっては植林の多さとそれによる山の崩壊は差し迫った問題と感じました。崩れた細かい砂は重要な隠れ家となる礫の隙間を塞いでしまいます。

また、なぜ成体が1個体しか見つからなかった?ということについてですが、これは単に成体は臆病でそうそう出てこない可能性と、産卵にはまだ少し早い時期だったのかもしれません。

越冬幼生については、2年も越冬する個体もいるようです。段々になっている沢の緩やかな場所に複数匹すみついて昼間は礫の下に隠れて、夜に出て目の前に来る餌を食べているようです。幼生はほとんど動いていませんでした。隠れるときは頭を突っ込むので尻尾だけがでたりしています。

まとめ|熊本の奥地で見た伝説のリアル

春の脊梁野山。自然林。
植林地。沢は荒れ放題。
根元の保護プラスチックは割れて沢に落ちてくる
谷が深く脆いのに植林地が多い。せめて採算がとれるのなら、いいかもしれないのだが・・・。今後どうなるのだろう。林道も崩壊しているのに商品価値のある杉を切り出せるのだろうか?
本来の脊梁山地自然林の源頭。明るくすっきり(もしくはすずたけ)この独特さが九州脊梁。下草のないこのすっきり感は増えすぎた鹿のせいともいえるのだけど、植林地が増えて天然林が少ないから鹿も集中してしまう。

今回、無事にベッコウサンショウウオが見れてたのはとてもうれしかったです。

日本一美しいともいわれて名前だけはだいぶ前から知っていました。採取禁止という事で、今後見ることも無いんだろうなと思ってましたが、ちゃんと沢を歩けば見つかるんですね。

しかしながら、ポイント選定段階で嫌な予感。自然林の谷が無い。ひょえー。やっと見つけて実際に崩壊した林道を歩いて行ってもガレ場だらけで水も流れていない。あらら。

ベッコウについては谷の荒れ具合が本当に心配になりました。四方八方から倒木が折れ重なっているので。そして思うのは、この杉の木はちゃんと切り出されるのだろうか。もし切り出すときは、皆伐で禿山になるのだろうか。そうだとしたら豪雨で幼生が全て流されて二度と帰ってこないのではないだろうか・・・。

また行くから。待っててね。幼生ちゃんもちゃんと大人になってほしい。未来永劫この完璧なフォルムの生物がこの先も繁栄することを願います。

ということでベッコウサンショウウオを探しに山に行きましたという記事でした。興味がある人はチャレンジしてみてください。運が良ければ必ず見れます。そしてご安全に!!!

ご自身で観察を行う際は、現地の条例や規則を事前に確認し自然環境や生物への影響を最小限に抑えるよう努めてください。

ベッコウサンショウウオのもっと詳しい情報を知りたい人は魚部の特盛サンショウウオ本を読んでみてください。ベッコウサンショウウオの生息地が危ないという専門家の寄稿文がのっています。

参考記事

ベッコウサンショウウオ – WEB両爬図鑑
【日本一美しいサンショウウオ】九州の秘境でベッコウサンショウウオ観察
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ベッコウサンショウウオ