ベッコウサンショウウオについて

ベッコウサンショウウオは令和4年に特定第二種国内希少野生動植物種に指定された九州に生息する小型サンショウウオの一種です。
特定第二種の場合は販売や譲渡が禁止ですが、採取行為や飼育は可能です。しかしながら、熊本県・鹿児島県・宮崎県の条例で採取と飼育も禁止。具体的には熊本では天然記念物、宮崎と鹿児島では指定希少野生動植物となっています。
条例で保護された生物ですが、生息環境を脅かさない範囲においての観察や撮影することは可能です。
※ベッコウサンショウオは捕獲・飼育・販売は禁止です。観察だけにしてください。具体的には触るのはアウトと考えます。
ベッコウサンショウオ探しにいくぞ
先日、チクシブチサンショウウオがひとつの沢で10個体ほど観察できました。この時はすべての個体を単純に目視で発見。もし、ベッコウサンショウオがチクシブチと同じように沢にいるのなら観察と撮影ができるはずと思い立って出発しました。
探しにいくのは九州脊梁山地というエリアです。ベッコウは脊梁山地とその周辺の山の沢にいます。脊梁山地は登山で何度か行ったことあるので多少なりとも土地勘のある熊本県内エリアをピックアップして地図でポイントとなる沢を複数絞り込みましました。
当日は15時ごろに現地に到着し、明るいうちにいくつかの沢をチェック。この時は少し様子を見に入っただけですがサンショウウオは発見できませんでした。発見できたのはヒキガエルのオタマジャクシ、逃げる鹿のお尻、鹿の頭蓋骨くらい、ステンレスのたも網の枠くらい。

いざ夜間探索へ|発見の瞬間レポート

5本見た沢のうち、一か所は大変な落盤地帯で水も無くて候補から外しました。自然林の面積が広く期待していたのですが残念。
明るいとサンショウオは出てこないので、ある程度暗くなるのを林道で待ってから一本目の沢に突入。2人でライトを頼りに沢を遡っていきます。水量は脛くらい。倒木地帯や狭いゴルジュ帯を通過したりしながら水がたまった個所などを丹念にさがします。30分くらい遡って幼生発見。

気分は完全に成体を探しでしたが、越冬幼生を発見。春だから変態済みとおもってましたが、まだ幼生だとは意外でした。調べたたら変態まで2年かかるのもいるみたいなので納得。ということは年中幼生は確認できるってことです。それにしても模様がカッコいい。間違いなくベッコウサンショウオの幼生でした。サイズもデカく上陸間近?な気もしますが、小さいサイズもいてどの個体もまだ外鰓がありました。
わーいやったーと撮影していると、すぐ近くに成体も発見。いつからそこにたの?この子の親?


ベッコウサンショウウオの成熟個体発見できて今回の最大目標をクリアしました。見た目は明らかにブチやチクシブチ、コガタブチとは違います。そうそう、水の中だと粘液が青く光って神秘的な感じなんです。
カメラを水中に入れて撮影しようとするのに、電源が入らない。肝心な時にナンテコッタともたついていると、岩陰に入っていしまいました。

この個体を見つけた時は拍子抜けでキョトンとしてしまいました。あれ、成体もいるじゃん。いつからそこにいたの?って感じでした。さすがニンジャともいわれることもある小型サンショウオです。
幼生30個体と成体1個体を発見!




その後、沢を遡ると次々と幼生発見。幼生でも模様の個体差が大きく、興味深かったです。やはり黄色が多い方がインパクトあって綺麗な大人になりそうな気がします。
幼生が一か所の淵で3匹とか見つかるので、よしよし成体もまだまだ見つかると思って探しましたが結局最初の一個体のみでした。完全に水が無くなる源流までさかのぼって地図上でも稜線近くまで上がってきました。これで1本目の沢は終了。

二本目の沢も沢山の越冬幼生を発見できました。1本目の沢より多かったです。沢の距離も長く平流や吐合もあり、流域は一本目より広かったです。
しかし、見つかるのは越冬幼生ばかりで成体は見つからず。時計を見ると23時だったんので源流まで上がることを諦めて下りました。もちろん、下りに成体を発見する可能性もあるので急ぎつつ観察眼を光らせながら下山です。
あらかじめ沢の出口にテントを張っていたので、インスタント系の食事を手早く済ませて就寝。この場所は半壊して放置された林道なので人も来ないからキャンプ地として利用させてもらいました。
行動パターン・出現状況の記録


ベッコウの出現状況の記録
- 探索場所:九州脊梁山地エリア
- 沢の場所:源流に近い沢。
- 時間:日暮れ以降。観察日は4月中旬。
- 沢の状況:礫が重なって隙間が多い。水生昆虫が多い。小さな段差と小さな淵が多い。
- 場所:水流がある所にはいない。緩やかな淵となっているポイント。
- 幼生:30個体は見れたが、大きさや模様はまちまちだった。最初の沢は源流近くまでいた。生体サイズは5-8㎝くらい。
- 成体:1個体しか見れず。小さな段差のこぶし大の礫の隙間に隠れていたのが、幼生を撮影している間に出てきた。ライトを当ててもすぐには逃げなかったが、礫の隙間に入っていった。尻尾の一部が千切れかけていた。
- 見つけ方:観察だけなので、木や石を裏返すことはしなかった。そもそもやる必要はないと思う。
- 注意事項:山が深いので注意する。林道も悪く通行止めも多い。標高250m程度でもいるらしいので、もっと人里近くで発見できる可能性もある。

使用した装備紹介

- ハンドライト
- ヘッドランプ
- 胴長・長靴・長袖・帽子
- 応急用品・行動食・水
体の保護のため長袖長ズボン、帽子着用。胴長か長靴で良いいのだが、胴長が最強。
夜の沢で安全に行動するため、そしてサンショウウオを少しでも見つけやすくするためにある程度明るいライトを使用したい。
ライトは充電式と電池式があるが、充電式の方が基本明るい。だが、一晩探すような人はかならず電池切れになるだろう。電池式も持っておきたい。ペツルのアクティックコアというヘッドライトは充電式も電池式もどちらもできる。しかもかなり明るい。
キャンプ用品
テント(テンマクデザインツードアドーム3) /グランドシート/テントマット/シュラフ/スリーピングマット/LEDランタン/ヘッドランプ/ガスバーナー&クッカー(プリムスイータエクスプレス)/カトラリー/シェラカップ/自作テーブル/水ポリタンク/EDCバック(応急・小物)
食事メニュー
夜:カレーメシ+卵/ジャガリコマッシュ
朝:パン/即席スープ/バナナ
予備:棒ラーメン/お菓子
観察からわかったベッコウサンショウウオの「生息地の裏側」

ベッコウの沢は想像以上にシビアな生息条件でした。何が過酷かというと、植林による山荒れ放題の山と谷。谷のあちこちが崩落地です。山奥なのに自然林が少ないという異様な感じ。間伐された杉は放置されて谷を滑り落ちてきて沢をふさぎます。貧弱な植生により土壌ももろくなり、あちこちで崩壊しています。ベッコウサンショウウオにとっては植林の多さとそれによる山の崩壊は差し迫った問題と感じました。
また、なぜ成体が1個体しか見つからなかった?ということについてですが、これは単に成体は臆病でそうそう出てこない可能性と、産卵にはまだ少し早い時期だったのかもしれません。
越冬幼生については、2年も越冬する個体もいるようです。段々になっている沢の緩やかな場所に複数匹すみついて昼間は礫の下に隠れて、夜に出て目の前に来る餌を食べているようです。幼生はほとんど動いていませんでした。隠れるときは頭を突っ込むので尻尾だけがでたりしています。
まとめ|熊本の奥地で見た伝説のリアル





今回、無事にベッコウサンショウウオが見れてたのはとてもうれしかったです。
日本一美しいともいわれて名前だけはだいぶ前から知っていました。採取禁止という事で、今後見ることも無いんだろうなと思ってましたが、ちゃんと沢を歩けば見つかるんですね。
しかしながら、ポイント選定段階で嫌な予感。自然林の谷が無い。ひょえー。やっと見つけて実際に崩壊した林道を歩いて行ってもガレ場だらけで水も流れていない。あらら。
ベッコウについては谷の荒れ具合が本当に心配になりました。四方八方から倒木が折れ重なっているので。そして思うのは、この杉の木はちゃんと切り出されるのだろうか。もし切り出すときは、皆伐で禿山になろ野だろうか。そうだとしたら豪雨で幼生が全て流されて二度と帰ってこないのではないだろうか・・・。

また行くから。待っててね。幼生ちゃんもちゃんと大人になってほしい。
興味がある人はチャレンジしてみてください。運が良ければ必ず見れます。そしてご安全に!!!
参考記事
